PFCS企画wiki

Parallel Factor Cultivate Server の企画参加者用 用語集です。

エウスオーファン

■名前

【エウスオーファン】

タミューサ村を拓き、仲間を集め、種族差別の無い集団の礎を作った男。

■種族

【人間】

■特化能力

【嗅覚】

■年齢

【56歳】

■特技

【懐柔】

■性格

【のんびり、柔和、隠れ激情家】

■容姿

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だいたいこんな感じ。もうちょっとグレーヘア。

 

■生い立ち

最初の記憶は、火薬と金属と汗の匂い。

そして官憲が荒々しく突入してくる騒音。

連れ去られる父と母。

僕は地下室に、キスビットの子供と一緒に居た。

酷く怯えている。

夜になって、僕たちは地下室を出た。

でも官憲達はずっと見張っていたんだ。

すぐに捕まってしまった。

ひどく殴られ、蹴られた。

キスビットの子は大丈夫だろうか。

血の匂いがする。

体中が痛くて、思うように動けない。

急に、とても懐かしい匂いがした。

頼れる、信じられる、安心できる匂い。

土の匂いだ。

僕は、死ぬのだろうか。

 

少年が幼心に死を意識したその刹那、官憲の足元の石畳が突然爆ぜた。

更に奇怪なことに、巻き上がった土は倒れた官憲たちに降り積もり、固まってしまった。

ジタバタともがくことしかできない官憲たち、その側に倒れている少年二人を担ぎあげて風のように走り去る人影ひとつ。

身にまとう装束と尖った耳から、キスビット人であることが窺える。

彼は一目散に市外へと走った。

都市の周囲を強固な壁で覆われた王都エイ マヨーカ。

もし脱出するのなら街道を進み関を越えなければならない。

しかしキスビット人はあろうことか壁に向かって走り続ける。

このままでは行き止まりになってしまうことは明白なのに。

壁が近くなるにつれ、彼の視線は壁の頂上に近づいた。

いつの間にか足元の土が盛りあがり、壁の頂点へと続くゆるやかな坂道を形作っていたのだった。

彼が壁の上に立つと同時に、土のスロープはボロボロと崩れ去り、ただの平地になってしまった。

 

次の記憶は木の実のスープの匂い。

僕は全身の痛みで目を覚ました。

体中に見たことの無い葉っぱが貼られている。

ゆっくりと上半身を起こすと、おでこから湿った布が落ちた。

お腹がぐうと鳴り、なぜだか恥ずかしかった。

大人のキスビット人が、テントに入ってきた。

そして僕に、お礼を言った。

「ありがとう。本当に、ありがとう」

シルファンは?どこにいるの?」

僕はキスビットの子がどこに居るのか聞いた。

お父さんとお母さんに言われたんだ。

この子を守ってあげて、と。

「・・・シルファンは、ビットの元へ還ったよ・・・」

意味は分からなかったけど、悲しい匂いがした。

この人が、とても悲しんでいることが分かった。

 

人間という種族はやたらと体裁を気にする。

子供の一人や二人に逃げられたからと言って大勢に何の影響があろうか。

しかし彼らの行動原理の一翼を担う“メンツ”というものが、彼らを突き動かすのだ。

あの日、土に固められた官憲は壁外警護兵を数人引き連れ、後を追ってきたのだ。

単筒式の遠眼鏡でキスビットのテントを確認する。

これ以上に北上されてしまえばもう完全な領外となり、追跡を諦めねばならなくなる。

いまここで、決行せねばならなかった。

壁外警護兵に合図を送り、弩(いしゆみ)を準備させる。

大型のクインクレインクロスボウに火薬爆弾を仕込んだ槍をセットする。

直撃しなくとも、数メートルの距離に落ちれば致命傷を与えることが出来る兵器だ。

風を読み、射角を決め、爆弾槍は放たれた。

 

「おじさんは、シルファンの、お父さん?」

僕が尋ねると、キスビットの男の人は静かに頷いた。

急に、悲しみの塊がお腹から胸に上がってきて、僕は泣きだした。

「おじさん、ごめんね、ごめんね・・・」

お父さんとお母さんが助けようとした。

僕が守らなきゃいけなかった。

おじさんの大事な娘。

おじさんは、僕を抱きしめてくれた。

本当は、もっと早く気付けたはずだった。

こんなにも泣いていなければ。

火薬と、鉄の匂い。

耳を突き破るような爆発音。

 

大量の砂埃を巻き上げ、テントを吹き飛ばした爆風は、石の礫をしたたかに撒き散らした。

キスビットの男が人間の少年を抱きしめたのは、この爆発から守るためだったのだ。

彼の背中には無数の穴が穿たれ、一目で致命的な傷であることが分かる。

官憲は喜び勇んで駆け出した。

「おじさん!おじさん!」

少年は、自分を抱いたまま動かなくなった男に何度も呼びかける。

「残念だったなぁクソガキ!散々手間かけさせやがって!」

少年の目に怒りと憎しみの炎が宿る。

「・・・してやる・・・殺してやる、殺してやる!」

呪いの言葉も虚しく、少年は怪我の痛みで立ち上がるのが精いっぱいだった。

「そんな体で何ができる?はん!大人しく連行されろ!」

そのとき、キスビットの男の体がぐらりと揺れ、立ち上がった。

いや、立ち上がったように見えた。

実際には周囲の土が彼にまとわりつき、人型を形成しているのだった。

「ゴ、ゴーレム・・・?」

絶望的な恐怖の言葉を漏らし、壁外警護兵たちは王都へ逃げ帰る。

どんな爆弾でも、どんな兵器でも、倒すことはおろか傷を付けることすら困難なキスビットの悪魔、ゴーレム。

人間にはそのように伝承されている。

ゴーレムはずずずと音を立て、一歩、官憲に近づいた。

「ひ、ひぃぃぃぃーッ!!!」

警護兵に遅れて官憲も、王都へ向かって走り出した。

少年は叫ぶ。

「待て!殺してやる!殺してやる!」

 

スン、と、芳ばしい匂いで目が覚めた。

どうやら居眠りをしていたらしい。

子供の頃の夢など、久しく見ていなかった。

この香りは、焼きたてのパンと、ああ、木の実のスープだ。

きっとこの匂いのせいであんな夢を見たのだろう。

「昼食の準備ができましたよ、エウス村長」

「ああ、ありがとう」

あのあと、キスビットの彼は幼い私に言った。

瀕死の状態で、最後の言葉を。

「こんな姿じゃ、シルファンに、会えないな・・・」

後で知ったことだが、キスビット人は土属性の魔法を使う。

能力には個人差があるが、才能のあるものにだけ使える禁呪があるそうだ。

自分の命と引き換えに、土壌神ビットの偉力を身にまとい、ゴーレムとなって戦う。

その力は凄まじく、武装した人間の大隊にも劣らない。

残りの寿命を圧縮して作りだす無敵の活動時間が終われば、さらさらと砂になって消えてしまうのだ。

しかしキスビットの民はこの力を使わない。

なぜなら、ゴーレムになった者は死を迎えられないと考えられているからだ。

無数の砂粒になり、風に舞い、この世に在り続ける。

魂はビットのもとに行けず、先に逝った仲間や先祖にも会えないのだ。

しかし、それをしてまで守ってくれた私の命。

私は人間だが、キスビット人に守られ、育てられた。

この命は、キスビットという国の為に、使いたいのだ。

世界の中でも例を見ない程、種族同士の関係性が悪いこの国。

どうすれば良いのかなんて、今は分からない。

それでも、何が正しいのかは分かる。

父と母の教えが、今も私の中に生きているからだ。